手枕
楽恵

女の面影や身体の柔らかさのことを
夜道を歩きながらぼんやりと思い出そうとしていた

半月に照らされた王都の白い石畳が
南島の短い冬に冷えていた

(あれは、まぼろしではなかったのか)

自分の着ている着物の袖に
野生に咲く小さな蘭のような匂いが
微かに残っていた

男が歩くたび
その匂いが風にのって鼻先をくすぐった

腕枕をしてやった際の、女の頭の儚い重さが
袖の移り香を通してよみがえってきた

そうして
先ほどの夢のように短い逢瀬が
確かにまぼろしではなかったのだ、と
夜風が吹くたび思い知らされ
胸を痛めるのだった



自由詩 手枕 Copyright 楽恵 2010-04-18 22:43:37
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