詩 04 / 03 / 02 /****'02
小野 一縷





暗い部屋の一角を 橙に染める白熱灯
闇と光の境界面に 一羽
透けた油色の水鳥が 羽根を休めて
緩い波紋 円の波を生んでいる


この胸まで 波は 広がっては消え また広がる
その柔らかい波に 幾重にも 眩暈が揺られ
少しずつ 眠くなる


綴じかけた目蓋の隙間から 
引いてゆく波間に 見つける
貝殻のように 鋭く薄い 言葉の破紋
広く暗い砂浜 目蓋に 刺さって
そこに また波が被さって
泡立ちの中に 微か 解けるように 消えてゆく


「はっ」と気付いて 息を深く吐く
胸が 少し重苦しい
鼓動が熱く 打ち始める
今一瞬 見つけた 詩の破片
忘れはしないかと 少し焦る


記憶を一片々々 言語化してゆく
それぞれの その違う色合いの輝きが 
眠気の 靄に霞む前に
素早く スケッチしなければならない


胸の痛みは つかえたまま 
それが胸の内に 溶けて拡がり
急速に酔う様に 深く 眠くなる


一通り素描できたら 時間をかけて 
それぞれの 言葉の発光を促す 自然に
その間 普通に暮らす 眠る 
詩の事は 日に一度 思う程度で

日を改めて ノートに向き合い

様々な輝き 色彩の密度と硬度 
時に その温度 音階 形態 芳香を
藍色一色の このペンで 何色にも描き出す


詩と呼ばれる 言葉の進行と変成 
それらは ノートの上に 様々発色することは無い
ただし 視覚から 順次 侵入し
知覚内に収められた 何億ものカラーコードを
自在に引き上げ 目蓋の裏 こめかみの奥へ 照射する


その際に
その他 身体感覚に感知され
    各臓器管に刺激を与え
    感情に変化を促し
    思考の起点となる「もの」


   詩


美と醜が解け合い 是と非が結び合う
ただ そこに 「然り」と在る 石のように 
こつり ことり こつり  
一つずつ 言葉を置いて 行く
その経路図を完璧に読みこなすことは 詩人自身にも出来ない


それでも


「この石達が その行く末 遠く永く流れてくる詩と 
 今夜 ここに 出会いますように」


祈る


「有意義な時間は 何時だって短い
  祈るより早く ペン先に拍車をかけろ
  そして この時間を できるだけ長く 保持していろ」

書く ただ 書く 

書き続ける





自由詩 詩 04 / 03 / 02 /****'02 Copyright 小野 一縷 2010-04-17 07:53:35
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