窒息
しべ
ニット
帽子
頬
十六の島に染められた子
遠景と 自動販売機から出た温かい缶を左手に
少女として佇む
移ろいゆくあなたが
ひとり勝手に 丁寧に動いている
遠雷と時報を前髪で震わす
あいだ バスターミナルは水田の中にある
ダッフルコートからとび出た手首
携帯電話を人差し指とがちがちの中指で押さえ
配列もキーの正射像も 睫毛で隠す
それを見つめる
彼女に関心のない あなた
煙突を見れば
耳に入らない風を装う
少女も涙粒を洗う
粒と匂いの正体を
右手をクルクル 手のひらで探る
歩道橋からも見える白煙に比べて
彼女の髪となる私は
黒くて気持ち悪い
トレーラが
ミラーアームを輝かし
大きく丸く首を振って走る
わたしの黒い髪は
綺麗に抜け落ちている
あなたは小さい
無垢なままでバスに乗り込み
ひとり霧雨の壁も破れない
あなたは言葉
少女は嘘で
銜えた私は
紙と
鉛筆で
黒い髪を
島や 頬を 描け