四つ手網
殿岡秀秋
玩具屋から
長兄が竹と網を買ってきた
二本の竹を十文字に交差させる
曲がりにくいところは
ロウソクの火であぶって
柔らかくして
十字の結び目を針金で固く縛る
網を竹の先端の四隅で止めて
四つ手網の底を作る
四辺形の三方にそで網を上げる
一方向だけが空く
そこから魚がはいって
逃げられなくなる仕掛けだ
長兄の指使いは手品師のようだ
ぼくはしばらくの間
魔法を観ていた
できあがった網を誇らしげに
兄弟三人で順番にかかえながら漁にでかける
千住から荒川放水路にかかる橋をわたって
しばらくいくと田んぼがある
畦の横の狭い水路に
水が勢いよく流れる
ぼくらは畦道を奥まであるき
水の流れがゆるやかになったところで
水路に四つ手網を沈める
次兄とぼくが長靴で入る
水路の底は土だ
流れに逆らって
網にむかってあるく
魚がおどろいてにげて
四つ手網にかかるはずだ
長兄が引き上げると
網のそこには水草以外に
何もはいっていない
期待が大きかったのに
がっかりした
「もっと遠くからこいよ」
長兄の言葉にうなずいて
網をおいたところから
離れて水路にはいり
底の泥が舞いあがるくらい
長靴で水をかきまわしながら
進んでいく
「魚よ、網にはいれ」
と願いながら
長兄が網をあげると
小さなメダカが二匹かかった
「やったぞ」
網をしかける場所を変える
また水路の
底をこするようにして
魚を追いこんでいく
網に大きなメダカと
アメリカザリガニがかかった
黒色と緑色のまざったメダカの肌と
赤いザリガニの甲羅の取り合わせに
ぼくらは喚声をあげる
そして挟みのある
ザリガニをつかまえるために
大騒ぎをして
ぼくらは初めての漁で
巨大なイルカと
獰猛なワニを獲って
バケツにいれ
どうか見てくれと
通りかかる大人に
みせびらかして
日の傾きかかった
荒川放水路の木の橋を渡る