ちょこれいと
あぐり
チョコレートがきらいです
チョコレートがきらいです
チョコレートがきらいなわたしは
うまくひとをあいせない
チョコレートって見るたびに
それは板チョコでひいんやりしていてかたいの
そういうののいめーじ。
あんなにも小さな窓をいくつも彫られて
わたしのせかいは、じゅうにのチャンネル
正確にいうんならば
ちょこれいとがきらいです
どろうりとした
あの赤褐色
わたしのなかであれはただの
浴室に溢れていた海でしかない
はいていた。まいばんまいばんはいていた。だってなにかを摂取するというのはつみぶかいことなんですそうなんです、おかあさんのつくった料理ではないのだけどおいしくいただいてわたしはそれらを咀嚼しながらも(あじわうことでこのたべものたちはむくわれているのやわ、やからもうべつにこのあと排水溝にながれていったってかまわんのやわ、そうやわそうやわそうやわ。はきたい、はきたい、はきたい)
わたしは深爪だったけれどもやはりそれは咽の粘膜をなんかいもなんかいもひっかいてるみたいで、いつも少量の残骸といっしょに透明な胃液は薄汚れて赤かった。これは声もつぶれてしまうんやないかなぁなんていうあわいきたいと、それよりもかそくしていく罪悪感におしながされてわたしのなかのものはそのまま渦になっていく。
ちいさな浴室にはわたしのにおいがあふれていた。その習慣のあとにはいつもしてきたようにからだをあらい、それからせっせとマットや排水溝のあたりをあらいはじめる。たいりょうのみずでながされたわたしのなかのものたちはそれでもまだ声高にここにいるよといっていたからなんかいもなんかいも洗剤をながしこんだ。はいたあとはすぐにうがいをして、胃液で歯がとけてしまったらそれはかなわんなぁなんてのをおもってた。歯のとけてあなのあくじぶんをそうぞうするのは夜にねむることよりもたやすくて、ちいさくうなずいた。だれかがみていた。
ちょこれいとをおかあさんはわたしにまいにちてわたしていて。まったくたべんわたしやからおひるごはんややすみじかんにすこしでもたべたらいいとまいあさおかあさんはいっぱいいっぱいつかんでわたしにくれるんだ。夏にはそれらはとろけてりんかくがふやあっとなってそれでもすこしずつなめていた。ちょこれいとをたべたひのよくしつは、赤黒い海で。わたしはそのにおいでもういっかいはく。おかあさんのしんぱいのぶんだけちょこれいとはまいにちまいにちふえていって。わたしはまいにちまいにちそれをかえりみちでなめつづけていた。
かするような記憶にのまれていく
ちょこれいとがきらいです
ちょこれいとがきらいです
街中にあふれかえるちょこれいとのその甘いにおいに気づく度に
あのころの浴室を思い出している
(海、海、それは海)
あの家の浴室はまだ
あまくるしい海をたたえているんだろうか
そうしてわたしにはもう
チョコレートを手渡してくれる人がいないという苦さが咽にはりつく
ちいさくちいさくうなづいた。
だれかがみていた。
だれかがみていた。