gate
mizunomadoka

奥のテーブル席で大騒ぎする若者たちを、
バーカウンターの老婦人が睨んでた。

その中間の丸テーブルで本を読みながら、
ポテトフライを食べていた僕は
トマトディップがなくなってカウンターにもらいに行く。

窓の外のテラスでは
子供たちがアイスクリームを魚みたいに頬ばってる。
天気はよくて、午後からは小雨。

席に戻ると、テレビの前でオレンジパーカーを着た女性が
ブリザードのニュースに見入っている。
雪の中でパトカーが炎上してるわよと、
誰とはなしに話しかける。

僕の斜め向かいで新聞をこねくり回していたおじさんが
待ってましたとばかりにその話題に食いついて解説を始める。
だからあなたも雪の日にはちゃんとチェーンを巻いた方が良いですよ!

若者たちは嵐のように去っていき、
散らかったままのテーブルと床を店のおじさんが掃除している

老婦人は? と見れば、
いつのまにか彼女はワインを注文している。しかもボトルで。
目が合ってしまい、ぎこちなく微笑む
けれど無視される。

ノルウェーのような上着を着たお父さんが
カウンターの端につっぷして眠ってる。
母親みたいなハンドバッグを肩から提げて、
ピンクのジャケットを着た女の子が、足下でお絵かきをしながら、
ときどき父親を見上げて、何か話しかけてる。

「貴方にとって自身の死にはどういう意味が?」とアサシンギルドの長は尋ねる。
歴史と同じだけ生きてきた扉の番人は立ち止まり応える。
「持っていたものを失うこと、それだけだろう」そして彼女の部屋を出ていく。

カジノで男は自分の命を賭けると言う。
お前の命になど価値はないとディーラーはカードを配り始める。
わざと負けてくれるつもりなのだと女は思う。
けれど男は勝負を落とし銃を突きつけられる。
男は膝をついて目を閉じる。どちらでもよかったのだ。
女の姿はない。床に涙が落ちている。

牧場で牛たちを囲いに追い立てながら、年老いた女は銃声を聞く。
空を見上げて息子の無事を祈る。

本は閉じても開いても、そこからまた奇跡が始まる。

雷が嵐を告げて、僕はドアを開けて転送ゲートに入る。
コートは土砂降りでびしょ濡れ。20世紀の天気予報め!

僕のゲートは17銀河ならどこにでも行ける。
山賊に襲われたことも、ドラゴンと一緒に魔術師と戦ったこともある。
小学校の先生もしたし、財布を落としたこともある。
ついでに恋もしている。
まあ、してるものはしょうがない。

その彼女はといえば、
一度も行ったことのない場所ならどこにでも行ける。
と言ったら聞こえはいいけれど、
本当は彼女自身がゲートで
不規則回数の睡眠でどこかに飛んでしまうだけなんだ。

だから僕が実際に彼女に会ったのは2日だけだけど、やれやれ・・
恋に落ちるのに時間なんて関係ないからね。

転送されるとき
いつも僕は今いた世界の幸せを祈りながらそれを待っている。
みんなが無事に家まで帰り着けますように
(特に店を出るときにまだ飲んでた老婦人とピンクの女の子が)
奇跡的に財布が見つかりますように
できれば次の世界では雨が降っていませんように
彼女に追いつけますように

待ちきれなくて目をあける



自由詩 gate Copyright mizunomadoka 2010-04-12 19:33:13
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