嘘の国
ふるる

その国
国なのに王を持たず
恋人もいない

波打ちぎわが逃げ続けるので
海は憧れの的

         つぐみの子が口を開け
         「夢が叶った」
         と言う

夕。
入日の激しい音のする
坂道を
帰宅人が歩く
ジャコメッティの
輪郭のないブロンズ

          夏。
          氷を削る
          シャリシャリ言う扱いやすい音
          の方を見れば
          言葉が跡形もなく
          咀嚼されてゆく途中だ

春風。
くちた肉の匂いが運ばれる
その肉
肉なのに血も出ず
動きもない

波打ちぎわが逃げ続けるので
海は信じれらないほど清潔

          つぐみの父親はうつむいて
          「申し訳ない」
          と言い
          「全ては私の責任です」
          と言う

潔癖症の娘が
台所の奥で全力で洗っている
横顔が
隠れているので
求婚者が絶えない

          つぐみの母親の新しい帽子は
          ローランサンのピンク

ある男がある女に誘われる
こけし畑へ
こけしのそよぐ有限の畑へ

そこで二人は。

           イヤホンは音楽を
           聴いたことがないと言う

神託を忘れた巫女が
波打ちぎわに佇んでいるが
それが海ということを
知ってはいない

           ぱち。
           小さな破裂音
           の方を見れば
           言葉が跡形もなく
           燃やされてゆく途中だ



自由詩 嘘の国 Copyright ふるる 2010-04-11 18:15:34
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