殉職した野球人に捧ぐ 
服部 剛

試合前の練習中 
選手たちにノックしようとしたら 
突然彼は胸を抑え、 
バットを握ったまま
グランドに倒れた 

担架に寝かされ、救急車で運ばれた彼を 
原監督が、チームメートが、ファンが 
愛する妻が、幼い子供が 
故郷から来た両親が 
病室のベッドの傍らで 
奇跡の回復を、願った 

( 彼は四日の間、静かに瞳を閉じて 
  眠り続けていた・・・      ) 

四月七日・午前三時二二分 
彼は大切なグラブとバットを
グランドに置いたまま 
天国へ旅立った 
皆の胸に
あどけない笑顔だけを、残して 

原監督がナインを試合前のグランドに、集める。 
彼が守っていたセカンドで円陣を組む。 

「 たくやーーー・・・ 
  皆、いくぞ・・・! 」 

「 おぉ・・・! 」 

涙を頬に流して仰いだ天に向かって 
彼の名を呼ぶ原監督を中心に、 
ナインは心を一つに、叫んだ。 

その夜の試合で 
ナインは喪章を袖につけ 
ある者は、生前の彼のように、全力で走り 
ある者は、白球に向かって飛び込み 
ある者は、球場に虹を架けるホームランを放ち 
たった一つの勝利を、彼に捧げた 

グランドに残された誰もが 
突然逝ってしまった彼の魂と一緒に 
闘っていた。   

妻にジャイアンツのユニフォームを着せられた 
彼は今も棺に横たわり、眠っている 
原監督が命日のウィニングボールを
持って来るのを、待ちながら 











自由詩 殉職した野球人に捧ぐ  Copyright 服部 剛 2010-04-09 15:27:44
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