四月の部屋
石瀬琳々
ある日突然窓を開けて
一羽の鳥が飛び立ってゆく
ある日それは静かに晴れた朝で
まるで船出のリボンをなびかせて
とても陽気に飛んでゆく空を
私の小指にはリボンが結ばれていて
ただ黙って眺めています
どこまでもどこまでも途切れる事のない
春はゆるやかなカーヴを描いて
おどけたように私の前に立ち現れる
こんにちは さようなら
またいずれかの朝を
ある日偶然手紙が届いて
お元気ですか、とたった一言
すでに予感していたその言葉を
私は反芻してみます根気強く
そして宛名のない封筒に涙のくちづけを
手のひらには小さな鍵がひとつある
まだ試してはいないのです
けれど私の胸の鍵穴にぴったり合うでしょう
一羽の鳥がふるえて蹲っている
ある日飛び立つ空を夢見ながら
こんにちは また明日
いつかいずれかの春に
この文書は以下の文書グループに登録されています。
十二か月の詩集