四月の部屋
石瀬琳々

ある日突然窓を開けて
一羽の鳥が飛び立ってゆく
ある日それは静かに晴れた朝で
まるで船出のリボンをなびかせて
とても陽気に飛んでゆく空を


私の小指にはリボンが結ばれていて
ただ黙って眺めています
どこまでもどこまでも途切れる事のない
春はゆるやかなカーヴを描いて
おどけたように私の前に立ち現れる


こんにちは さようなら
またいずれかの朝を


ある日偶然手紙が届いて
お元気ですか、とたった一言
すでに予感していたその言葉を
私は反芻してみます根気強く
そして宛名のない封筒に涙のくちづけを


手のひらには小さな鍵がひとつある
まだ試してはいないのです
けれど私の胸の鍵穴にぴったり合うでしょう
一羽の鳥がふるえて蹲っている
ある日飛び立つ空を夢見ながら


こんにちは また明日
いつかいずれかの春に




自由詩 四月の部屋 Copyright 石瀬琳々 2010-04-08 13:40:20
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
十二か月の詩集