マロンの冒険 (春)
かんな
# プロローグ
太陽の陽射しとご主人様の肌触り
どちらもあたたかい
ひざの上で寝たふりをする特技は
生まれついたもの
薄目をあけて見わたす庭はいつも
かがやいていて眩しい
さあそろそろ出かける時間がきた
すこしだけ背伸びをして
小さな僕だけの空間に飛び出そう
#1 海のやわらかさ
静けさが聴こえる
そんな朝は海への散歩
海岸線を走る車の影を追い抜いて
僕がいちばん
ゴミしかない砂浜はさびしい
だから足跡をつける
居場所はたくさんあった方がいい
波がくる足元まで
ちょこっと触れる
海はとてもやわらかい
#2 春の味見
ぽた、ぽた、ぽたり
雪解けのしずくをなめている
生きる源は必ずどこかにあるから
さがす度にさがす旅
そよぐ風にも味がある
すこしやさしさのスパイスがきく
あたらしい季節を祝う
ぽた、ぽた、ぽたり
昨日流した涙の訳に
しずくをくわえて乾杯しよう
#3 ぬくもりを抱く
あたたかい春におもう
つめたい冬におもう
ふと抱くから
放せないおもい
あたたかい匂いがして
つめたい香りがして
僕にとっては
どちらも透明で
どちらもつかみ切れない
きっと母の、匂いと香り
#4 春風と出あう
肉球で感じる
あたたかい土の温度
こんにちは
と空にあいさつすると
おはよう!
と頭上から声がする
あたたかい風の感触がした
春が生まれたのはきっと朝
光かがやく未来をみて
生まれてきたんだ
#5 さくらさく
さくらが色づく
その意味をさがして
僕は花びらにキスをする
うすい唇をつたって
つたわってくる春の色に染まる
花ひらく瞬間をさがして
そのひと時にまどろむ
僕がまばたきをする度に
つぼみがほころぶのに気づいて
目を閉じたままキスをする