気化
三上あず
何度も何度も思い出すごとに
それは刻みこまれる
頭の中の隅々まで沁み込んでいく
忘れなよ 過去のことだろう と
誰かが警告を鳴らす
大切なものを取り零してしまうよ
深く深く刻み込まれた
その傷あとはまるで
いつか見た誰かの腕のようだ
息をすることさえも拒否して
夜にしがみついて生きていた
それがどれだけのことか
今の君には分かるだろう
生きているんだろう
記憶でさえも
だから時々浮上して
存在を確かめるんだろう
忘れないよ 忘れやしないから
少しだけ隅によって
空気みたいになってくれないか