天国とオレンジジュース
草野春心




  ぎらぎらの夏の果汁を飲み干してゆく君の喉が
  自動機械のように凹んだり膨らんだりするのを
  世界が終わってまた始まるときまで見ていたい
  すべての鳥の羽を一枚ずつもぎとってしまおう
  すべての鈴虫の鳴き声をうばいとってしまおう
  すべてのひとたちの恋人を焼き殺してしまおう
  この世は天国。余計なものを沢山集めよう??

   *

  白い シャツの ゆう暮れ
  椰子の木に とまる 沈黙
  死にゆく ながれものの うそ
  うそ うそ うそ
  そして 僕たちは こっそりと恋をした



  白い シャツの ゆう暮れ
  かたちない闇を つぶす 足あと
  さわりあう ぼくたちの うそ
  うそ うそ うそ
  ずっと 僕たちは うそをついていた

   *

  君を瓶詰めにしたいとずっと思っていた……。
  この世は天国。余計なものを沢山集めよう?
  癇癪玉や日曜版や耳かきや愛の切れ端や乳房や気だるい午後
  この世は天国。余計なものを沢山集めて、
  一緒に破産してしまおう……??



  僕の心臓の中の血管はもうハジケちゃったから、
  死んだフリをしないで済むことが嬉しい。
  僕の中の感情も二度と勃起しないらしいから、
  君を愛するフリだって、しないで済む。
  嬉しい、嬉しい、嬉しい。



  アイウエオもABCも句読点も隠されてしまえば
  ひとはただ抱きあうしかない。朝も昼も。
  僕は天使を辞めた。君はオレンジジュースのように気楽だ。
  ただ、存在せよ、存在せよ、存在せよ。

   *

  白い シャツの ゆう暮れ
  浜辺に ころがる 木片
  頬から こぼれた うそ
  うそ うそ うそ
  きみはうそをついていた



  白い シャツの ゆう暮れ
  物音に おびえた 背中
  天国で こだまする うそ
  うそ うそ うそ
  うそ うそ うそ
  うそ うそ うそ



  それがてんごくだった。

   *

  汗や涙や精液や膣液や血液やその他色んな液体……、
  僕たちは初めから穢れていた。
  ぼくたちははじめからけがれていた
  この世は天国。余計なものを沢山集めよう



  君を嗅ごう。僕を嗅いで欲しい。かいでほしい
  君を啜ろう。僕を啜って欲しい。すすってほしい
  君を齧ろう。僕を齧って欲しい。かじってほしい
  嬉しい。
  嬉しい、
  嬉しい?
  ……うれしい??
  僕は君を瓶詰めにしようと思っていた。
  ずっとそうおもっていたんだ。




自由詩 天国とオレンジジュース Copyright 草野春心 2010-04-06 16:52:10
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