春宵夢中
乱太郎


夢幻(まぼろし)のごとく
無常なるはこの世の業なれど
桃の薫りは確かな証(あかし)
移ろいゆく華の舞に
一筆の恋の文(ふみ)散るなかれ

  *

望月の宴(うたげ)
今宵限りの貴女との接吻
我が魂奪われしまま
幽玄の彼方へ連れ去られたもう
平安の都(みやこ)の極楽浄土
錦の鯉が跳ね踊る池の先へと

  *

照らされし夜桜に絆され
十二単剥いでいくも
物憂げな響きの琴の弦
貴女の瞳に妖しき呪いが映りたもう
震える裸体に白蛇の刺繍の悶え
桃色の火照りは
やがて紅く炎と化して
望月に吸い込まれていく勢いに
我が身は滅ぼされん
我が魂は焼き尽きされん
されど春宵夢中
貴女と共に居られるのなら
後悔など忘れまじき


自由詩 春宵夢中 Copyright 乱太郎 2010-04-04 16:56:49
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