春のこと
山中 烏流
風の音がする
窓越しに見上げた、トタンの屋根が
端っこの方から剥がれるのを
何も言わずに見ている
***
きちんと真ん中ではない、
いわゆる
真ん中の方、とか呼ばれてしまう辺りが
しくしくと痛む毎日
通り過ぎる人々の目や、足並みに
新芽の影を見て
私は
川沿いの石畳を走りながら
溜め息と引き換えに、呼吸をし続けている
***
街路樹は今、思春期を迎えた
その姿を
様々に変えていく過程に
少女たちのそれを見て
何も、話せなくなる
紅を引いた無数が
視界の大半を埋め尽くすことは
私にとって、決して
喜ばしいことではなく
根元から落ちた花びらと
その上に残る、小さな足跡の側で
細く伸びた黄緑が
風を
表していた、夕べ
***
陽の光が和らいで伝わる、窓辺から
寝転んで見上げた空は
ほんのりと
乳白色に染まって見えた
大げさに捲れ上がるバスタオルに
日々を思い出す、そんな人が
私だけでないのなら
まだ、きっと、真ん中は痛まない