三国橋の上で
都志雄
橋の上、
時計回りに見渡せば
下野、
下総、
武蔵国
いつからか都の殿上人たちはこの地にも境を引いて
左扇で国獲り遊戯
その頃すでに
古河の渡りは扇の要
やがて平将門の颯吹き、
その後は公方が夢の跡
今じゃ譜代の城も無し
それよりあの娘、いま頃は…
麻久良我の許我の渡りのから梶の音高しもな寝なへ児故に ※
逢はずして行かば惜しけむ麻久良我の許我漕ぐ舟に君も逢はぬかも ※
渡しの船が船橋に
船橋がトラス橋に変わっても
ここにもやっぱり冴えない芦一本、
後生大事としがみつく
野焼きの煙たなびけば
芦焼け葦焼け春萌えて
あしよし あしよし ヨシキリが
あしよし あしよし 品定め
ラジコン 気球 水上スキー
ゴルフに野球に一里塚
次々変わる川沿いの
景色振り切り息切らせ
橋桁の逢瀬は見ぬ振りで
訳知り顔の夕陽が霞む
要の橋の上立てば
あっ 西行サン、
霧ふかき古河のわたりのわたし守岸の舟つきおもひさだめよ
…です、か。
どちら岸にも渡りあぐね
といって川にも飛び込めず
みごと両半身分裂したこのザマを
とりあえず笑いとばしてはみるものの
かすかに引きつる右頬と
シクシク疼く脇腹で
また来た春の生暖かい南風受ける、
束の間の日曜日
三国橋の上