春告鳥と不如帰と鴉
板谷みきょう
まるで、することがないみたいに
夜の間、ずっと満ち欠けの月の境界線を
なぞっていたのは
愛の国から幸福へ行く為じゃないの
報復行きの切符が買えると聞いたから
「都市伝説かもね。」
「春が近いはずだわ。」
「鼻水が止まらないもの。」
「もう少ししたら、目が痒くなるのよね。」
「嫌になるわ。」
春の来ることを喜べなくなったのは
何時頃からなのだろう
体温計みたいな検査器を出して見せて
抑揚の消えた声を味気無く続ける
「赤ちゃん出来たみたい。」
眼差しを背けながら
宙空に細く渇いて吐き出した息に
掠れた声を乗せる
「鶯よりカッコウの方が好きなのよ。」
息が荒くなるのを抑えながら
静かに口にしたが
首筋の血管は凄く速く脈打っていた
「ごめん。」
何をどう言えば
返事することもできず
そのまま疲れに任せて
いつもと変わりなく
泥のように眠った
目覚めた時にアイツは消え
二度と姿を現さなかった
あれからどうしているのか
いまだに解からないけれど
屋根に止まり嗚呼と哭く
明けの鴉の声を聞くと思い出す