ほとんど麻痺をすることで僕は人を愛することが出来る
真島正人
半分以上寝ぼけた君が
また行っちゃうの?
帰ってきてと
つぶやいたような気がする
君は猫のように体を丸めて
ぬくもりを求めている
時間が流動する
体液も流動する
唾液の一つ一つが
君と僕を
隔てている
空は茜色だ
気がつくと夕暮れ、
ということがよくある
やはり時間は
軟体動物の体よりも
柔らかく動く
・
半分以上寝ぼけた君の
体温が伝わりそうで伝わらない
指は柔らかいけれど
肌も柔らかいけれど
僕にはよくわからない
なぜ僕たちは
こうして一つになって眠られるのか
君は僕を愛する
僕は君を愛する
君の体が僕に近づく
僕の体が君に近づく
そのとき、
異物である
恐れは
どこかに過ぎ去っている
そしてそれがやがて
舞い戻ってくる
清い水の流れのように
笑みを伴って
戻ってくる
君は僕から体を離す
僕も君に吐き気を覚える
僕たちはお互いに
苦痛ではなく、
汚さを感じ
経年の皮膚の汚れ
疲れ、
おかしな感情から、
遠く隔てられていたことを、
不意に思い出す
空が割れている
誰かから見ると
それは相変わらずの茜空で
僕と君にはその
真ん中が割れて
違う色の
皮肉が見える
それは
まるでめくれ上がった人間の肉体の一部
皮膚を割って生えてきた
何かに見える
・
半分以上寝ぼけていたのは
君か僕か
僕たちはしばし
議論をする
それが終わる頃に僕たちの口は
互いに禁止されている
僕たちの認識が皮膚を通り越し
相変わらずのそれが流動する
僕たちは生まれて最初に
飲み込まれ
流れるうちに
飲み込まれていることを忘れてしまっていた
あぁ
しばしの覚醒、
ふいに
頭が冴え渡ってくる
そしてやがてまた
頭が鈍り
深い眠りにつく
目覚めると
僕と君は他人になることを
承諾しきっている
僕は今、とても重大な、大切なことを口に出すことが
出来そうだが、先に書いたように
この口は禁止されている
語るべきことを語れるときに
必ず
この口は動かないように
出来上がっている
君は
皮膚を整えるように
洋服の
薄い生地を撫で
沈黙という
偉大な発明と
対峙している
僕は
呼吸器のことを
大事に考え
そうしているうちに
また時間が流れる
覚醒、
覚醒していると
何も愛など
理解できないのだと
もごもごと口を動かして
つぶやこうと努力するうちにまた
頭はぼんやりと眠り……
そして目覚めると
愛を覚えている
記憶としてではなく
受け入れるための愛を
新しい愛を覚え
人の皮膚に
恐れを抱かない心を
また獲得しているのだ
こうしてぼんやりと
頭は眠り
眠ることで
隔てられている
知ること
恐れること
離れるということ
から