うばっていくんだろうとおもっていたんだ
記憶もにおいも痛みも。
酸素さえぼくらは不必要に摂取してしまうのだから
なにかを共有することなんて出来ない
ひとつのせかいをつくってみたが
やっぱりそれの所有者は複数ね
わたしだけのものなんてないのだ
そう、このからだだって
おとうさん
ほしいものは、ひとつです。
春の雨。
ふいに横をすぎていった女の子をひっぱたいた
彼女の今の衝撃は
わたしだけのものだろうか
くだらないのでぼくはつめを切ったあとに
そのつめのひとつひとつに色をぬっていく
燃えて崩れ落ちるそのときまで
どうかぼくだけのものだと生きてくれないか。
どうだろう、そんなことを
だれがのぞんで いるんだろう