さようならの宴
オイタル

レストランの扉をあけてこんにちは
それから背伸びするぼくらの周りで
絵のように時間は流れていった
高い窓を 雲の尾を引いて
空がうす青く光りながら流れていった

テーブルの上に焦げのついたラム肉が並び
ぼくらはフォークを握ったまま笑った
おかしくって
彼は細切りの 炒めた黄色いピーマンをつつき
ふきのとうのフライを裏返し
また少し笑って 終わりのない話をした

彼女はひざの上で 両の手を組み替え
「約束が違う」と言い それから
少し笑ってみせ 少し怒ってみせた
それはとてもよかった
さもあらぬ思わせぶりのようで

仕方あるまい
ぼくは文字が見えないことについて
ひとしきり愚痴を並べ
近視と老眼について意見を述べた
いやだったんだけど

そのあとまた光った高い窓に
ぼくらは いっせいに視線をすべらせた
ぼくらは 同じ意見をいいながら
見えるものが違ってたんだ

店のあちこちに転がった
四角な時間の端々に
たくさんのお料理の名前を指差しながら
(ヌーヴースーエットンユンヌボナペティ)
ぼくらの背後を
マダムが忍び足で通り過ぎていった

やがてぼくらは
本当のさよならをした
首輪のついたヤギのように


自由詩 さようならの宴 Copyright オイタル 2010-04-01 00:12:13
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