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イシダユーリ
冬、
前歯がのびる
冬、
前歯がのびて
冬、
痛みが
かじかんでいる
たもとに
つっ立っている
おおきな動物の
からだを
すりぬけながら
人間同士が
殺し合う
ころしあう?
ころしあう
とは
ただしくない
言いかた
いつも
片方だけが
死ぬ
そして
片方が
もう片方に
なって
死ぬ
おおきな動物が
まばたきをする
前歯が
のびた
とがったひとつの
前歯が
のびる
痛いなあ
ジャンプしたりすると
痛むよ
片方が
土のうえに
倒れて
飛べるものは
空に向かった
冬、
泥がぬるく
死ぬ間際の
からだを
よごす
しようもなく
彼の体や
彼女の横顔を
おもいだすのだけれど
それは
電気のスイッチのように
潔くはなく
けれど
きれていく電池のようには
あいまいでも
ない
だから
たとえば月や
夕陽
そして
うみだされる影を
みて
ひとりごとを言おうとする
けれど
なにも言うことが
思いつかずいると
また
歯が痛み
車が横切っていった
からだを
よごさなかった
泥の粒が
はねる
痛みの点滅が
すこしずつ
よわっていく
おおきな動物が
遠くなる
冬、
とてもあつかった
冬、
彼女が死んでいたとしても
わたしは
それを知らないで
いるだろう