ムエウチさん
アキヨシ

ムラウチさんは横に座った人間が
とてもにおったので
ウエストポーチから取り出した
爪楊枝でそいつの手の甲を
刺した!
殴られた!
折れた!
歯が!

ムラウチさんはポリエステル100%の
セーター
それはゾウリムシのような柄だ

着ていてそこにガムテープが貼ってあったので
剥がした!
見た!
毛が!
いっぱい!

ムラウチさんはセヴンイレヴンで
おかかのおにぎりを買って
食べようとしたら
目の前にいた
薄汚れたミネウチさんが
口をあけたので
投げた!
入った!
吐いた!
殴った!

ムラウチさんの肉厚の脇の下には
ミネウチさんの人参が生えていて
諸行無常を感じたときには
真ん中で折って
因幡のウサギを探しに行くのだ


ムラウチさん!
ムラウチさん!
ムラウチさん!


ムネウチさんの胸は
窪んでいる

窪んでいる!

ほんとだ!

ムエウチさんは動物を買い始めた
まずは耳の後ろにモモンガを二匹
耳は二つあるから
それから背中にうなぎを一匹
ムエウチさんは脊髄移植を知った
腹には豚を一匹
胸にはムラウチさんを二人
豚とムラウチさんは互いに攻撃しあうので
ムエウチさんは心労のためやがてやせ細り
まず脊髄からやせ細り
その窪みにうなぎがはまり出した頃
ムエウチさんの独裁が始まった
ムエウチさんはモモンガに常に皮を広げるよう命令し
非常に広範囲の聴覚刺激をキャッチした
豚にはムラウチさんに喰われる事を命令し
ムラウチさんは豚を全て平らげる事を強いられた
ムエウチさんの乳房に掴まりながら
ムラウチさんは豚を平らげ
食べられなかった皮や毛や骨や内臓や爪
食べられなかった皮や毛や骨や内臓や爪
ムエウチさんが見て
ムラウチさんが喰われた
モモンガは恐ろしくなって
でももう死んでいたので大丈夫だった
一層乾いて固くなったモモンガは
山の向こうの音波をキャッチして
検閲せずにそのままムエウチさんに送るので
ムエウチさんはしばしば金切り声を上げた
それは神様の声で
引き返せ、というのだった
ムエウチさんはもうずっと真っ直ぐに歩いてきたので
それ以外の動作は出来ないのだ
星座を狂わす大声の中
昼も夜もムエウチさんは歩き続け
時折見かけるものもいる


自由詩 ムエウチさん Copyright アキヨシ 2010-03-29 23:33:07
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