言い聞かすひと
恋月 ぴの
これって何かの間違いだったりして
夕方近くに先日面接受けた問屋さんからの着信
胸の震え抑えつつ電話に出てみれば採用しますの吉報だった
他の誰かと間違えていないよね
いつもの野良猫に尋ねても知らん顔で身繕いしてるし
ふにゃり「ら抜き」は普段どおりだけど
じんわり嬉しさこみ上げて「やったね!」なんて指を鳴らしてみる
それにしても就活中って中途半端な過ごし方してたな
自由になる時間いっぱいあったのだから
もっと有意義に使えれば良かったんだけど
私って気が小さいのかな
足しげくハローワークへ通ったり
部屋に戻れば只ひたすらと電話かかるの待っていた
あれほど自由な世界に憧れていたのにね
職探しよりもっと大切なことあったような気がするけど
憧れは憧れで終わってしまうものだし
自分以外の自分に成り得ないことぐらい判ってる
物足りなさもあるんだけどさ
身繕いにあきたのか野良猫は陽だまりに寝転んでいて
木蓮の白い花咲き誇る甘い香りに癒されて
職にありつけた幸せよりも
これでよいのかと躊躇し続ける心模様に
贅沢は敵だ
そんな遥か昔のことばを私自身に言い聞かす