黄昏 / ****'99
小野 一縷
捩れた煙草の空き箱の傍で
うずくまって眠り続けていた夕顔が
霧雨に揺すられて
今 目覚める
目覚めろ もう一度
果たせやしない使命
霧露に溶かされて
もう一度
こわれたヴィオラ 鳴いている
海辺
マッチ棒の尖塔が燃えている
硫黄の狼煙は 吹き上げる風に紛れて
大陸まで 昨日の悲報を届けてくれる
陽光の刺激臭に 水平線は霞んで
鈍い瞼に遠慮せずに 海面を揺さぶった
海辺
針葉樹のささくれた影
うつむき加減の岸壁 仰向けて
胸の上に淡い願いを置いてみる
その柔らかさを嗅いでみる
欲深さを秘めた瞳は
潮風を細目で見据えている
風の奥にある微かな執着
陽射しが突き刺さった雲は
薄く霞んで
海に降り積もる
薄雲を透かして見える 明日
海に降り注ぐ 光の雨になって
西陽に 釣果なしの
つまらない釣り人は 焼却されてゆく
輝いて 縦長に 揺れて
鱗雲に吸い上げられる 陽炎になって家路につく
海面の幾千の剃刀の鋭さが
あざとい視線をはね返していた
音 光 匂 乱反射の中
誰一人いなくなった眩みの中
「楽園」と書かれた 看板の影が
乾ききった堤防の上
ゆっくりと
伸びてゆく