蛇つかいたち
吉岡ペペロ
シバタさんと久しぶりに話せた
所長にだいぶ持っていかれてるんじゃないか、
ユキオは顔をこわばらせながら
そうですね、と言って演技ではなくため息を吐いた
シバタさんからの注文以外ほかで取られているという実感はなかった
ああいうひとを大切にしない会社は結局ダメなんだよ、シバタさんがしんみりと言った
そう思います、ユキオはカタヤマのことを思ってそう言った
いつもとは違う沈黙がながれていた
ユキオはシバタさんもじぶんもおなじサラリーマンであることを思った
ぼくにもうひとりぼくがいたら、カタヤマのきのうの言葉を思い出した
きみもいろいろ苦労してるだろ、まったく営業を知らない社長とおいしいとこしか顔をださない役員さんのしたでさ、
信じてる先輩がいるんで、心の支えというか、それはカタヤマのことだった
きみは何年目なの、
来月で二年目になります、
えっ、そうなの、いくつ、ふてぶてしいから五六年目かそれ以上かなと思ってた、
ユキオが歳を言うと、うちの息子とおなじだな、じゃあまたな、シバタさんが席を立った
ユキオも一礼をして調達室をでた
もう新緑ではない影をまといはじめた木々のしたを営業車をとめているところまで歩いた
ポンプメーカーに走った日、ここは満開の桜花であったはずだ
なのにそれをユキオは思い出せなかった
歩道と車道の段差にひからびた花びらがのこっていた
あのとき流した血が乾いたあとのようだった
それが風に吹かれてつまらない音をたてた
来週は3時に丸亀までむかえに来て下さい、とカタヤマから連絡があった
ツジさんにも聞いてみたけれど理由は分からなかった
ちょっとフルーチェをつくってみたんです、ツジさんが冷蔵庫からラップをかけた紙コップをだしてきた
なつかしいな、いただきます、
上田さん、なんか雰囲気かわったね、まえはジュース買いに行くけどなんか買って来ようかって聞いても、さっき飲んだからいいよ、とか言ってたじゃないですか、いまじゃいただきます、だもんね、
遠慮がなくなっちゃったのかな、そう言ったもののユキオにはじぶんがどう変わったのかよく分からなかった
きょうさ、シバタさんとすこし話したよ、いちを聞いたらじゅうを聞けって感じでね、
シバタさんって小学生のとき友達だった子のお父さんなんですよ、その子に連絡とろうと思ってたんです、
男、友達って、
女の子ですよ、連絡とっても意味ないかな、
シバタさんとはオレがやってゆくよ、でも久しぶりに会うなんて面白いかもな、彼氏でも紹介してもらえたりして、
ツジさんが笑いながらフルーチェまだおかわりあるんですけど、と言って冷蔵庫に取りにいった
営業所はむかし美容院だったらしくてスポットライトのような照明をいまもそのまま使っていた
まっ昼間だと気にならないけれど夕方を過ぎると暖色の明るいところと薄暗いところに明暗ができた
その境目をぬってツジさんがフルーチェのおかわりを持ってあらわれた
ツジさんがなんだか蛇つかいのように見えた