ジャパニーズ カルト
ハイドパーク

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名古屋弁で言う「やぐい」タイプの俺
その主体性のなさゆえ
夜桜ツアーに参加したのだが

桜と言えば一本だけ
バス停のそばに二部咲きのがあったきり
かなりの数のヤングたちが
芝生未満の雑草のはびこる草原で
火を囲みそれぞれ10人組ぐらいで
車座になってた

ノーブランドの缶コーヒー
1本ずつ渡されて
まだクソ寒い春の夜
白い息はいて焚き火に手を当ててた

グループリーダーの女子大生
とってもトーク上手
見る見るハートウォーミングなムード出来てきた
可愛い君は天性のアイスブレイカーだね

「じゃここらへんで、今まで自分のしたことで最悪のことを
告っちゃおうよ。私ねお義父さんと関係があるんだ。
小六からずっと今でも。」

ハァ何てったの
のっけからフルスロットルやね

次の人なんて
「寝たきりのおばあちゃんに糞を食わせた。
うまそうだった。」
とか言ってる
ちょっとどういう事?

時計回りに進む人外の
ロシアンルーレット
この人たち
赤ちゃんの首シェイクして
揺さぶりっ子症候群にしたとか
いじめでクラスメートを
あと一歩でしとめ損ねたとか
言いたい放題のバラエティータイム
みんな若いのにたいしたもんだね

でもなんか
告白したやつからどんどん号泣して
スッキリしちゃってんのは
何故

俺の番が来た
とっさに
「成虫になったばっかの、クワガタに餌を与えず、
殺してしまいました。BORN TO DIE.」
って思いついたが
だめだめ
こんなんじゃ勝てない
俺 無性に勝ちたくなってた
一番になりたかった

次の人ってリーダーが言うから
今夜が俺の告白記念日
懇親(渾身)の力込めてほえた

「オ俺、オオ弟をヲオ弟を犯しましたぁー」

瞬間みんな顔を背け
むせび泣いた・・・
え そうじゃないの
プルプルしてんじゃん
別次元の生理現象なの?
ビシ ビタターン
リーダーが自分で自分をビンタしながら
こう言った

「最悪、この人は何重にも禁を犯してるわ。
今日一番酷い。レベルEよ。」

俺はうれしさのあまり泣いた
本当は弟なんていなかったけど
まあいいかって感じしてた

急にスポットライトがステージらしきものを照らし
バチカンのファーザーみたいな人が出てきた

「わしと一緒にやるかー。この宗教やるかー。」

もちろん俺達涙にむせびながら
オーオーって元気よく答えてたんだ


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それから一年もの間
家族も仕事も捨て
教団から安く珍味を仕入れ
主に滋賀県の工場中心に
行商をしていた

「ロシアから来ました、珍味買ってください
買ってくれたら唄歌います。」

しれどこのぉみさきに はばなすーのさくころ

この唄がおっさんのハートキャッチして
リピーターを獲得するほど
俺は成功していた

教団ではトップセールスを記録し
かつ
弟を犯した男
ブラザーレイパーの異名をとり
幹部候補生に推薦される程だった
その頃の俺は
弟がいないのは弟が本当に
俺に犯されて自殺したって
そう思うようになってたんだ

ある日ちょっとした手違いから
普通の協会の牧師さんに
逆洗脳をかけられちゃって
見る見る普通になり
教団を辞めることになってしまった

サタンだの
死後裁きに会うだの
教団からはサンザン言われたけど
どうにも
笑っちゃって
戻る気になんなかった

笑いってとっても残酷だ
神を殺したのは笑いだって
誰か言ってたけど
本当そのとおりだと思う

俺は自分が勧誘した
たくさんの同志を置き去りに
教団を抜けてしまいました

だけどちょっと今
ちょっとどころかとても
懐かしくて仕方ない
あの牧場の出来事
あの行商の日々
あんなに感動したこと
今までではじめてだった





自由詩 ジャパニーズ カルト Copyright ハイドパーク 2010-03-28 23:01:04
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