ゴンザレスの丘
月乃助
あの遠くに見えるのが、
ダウンタウンのビルの群れ
ガラスの建物達が、光りを吸っている
白い家並みが黙っている木々の中
赤煉瓦の屋根は、みなが城と呼ぶ屋敷
尖塔を空に向け
放ち、教会のように険しく立っている
街と海峡のありふれた風景が人を黙らせるなら
まして春の輝きを失うことなど ないのだから
(まどろみが波を白くまたたかせては、)
波打ち際の砂浜はゆるやかな孤を描きながら、流木をやすませ
それを縁取る道に
行く自転車の影は、人を追い抜いて知らぬ顔
潮風に子どもの遊ぶ声が、届けられ
散歩をする犬のわずかばかりの喧騒をかき消す
航跡をみせるヨットの黒い影が、青い帆に風を孕ませては
眠ったような小さな岬の少し前を、あきれるほどゆっくりと進んでいく
(私は、静かに目を閉じたまま、そのありさまを眺めてる)
動きをやめた山脈が光りに浮き 雪化粧のまぶしさを誇らしげに
エニシダの黄色い花さえもう、足元に広がりながら
豆のにおいをさせては、海鳥達を誘っている
力を抜くと 雲ひとつない空が落ちてきてしまう
平和を揶揄する機会を待ち望んでいるように
ついさっきまで、私は海鳥達と一緒に飛び回っていたのに
今はどうしてもその姿を消して
民家の屋根の影へと隠れているのか
人の営みなど少しも感じさせない
唯物的な街は、それでも生きもののように
動きをやめてしまった大きな獣のしぐさで
春の日に、時間さえもほんの少しばかり
早く進みながら、鋭い時を
身にまとっている