風花
西天 龍
山の麓、谷間の果てる所に家はあり
冬場はいつも風花が舞っていた
ストーブは子供の役目で
おっかなびっくり薪を割り
煙にむせびながら火を起こし湯を沸かした
町までは午前と午後に1本ずつのバスで1時間
母にも手に負えない高熱でも出さない限り
めったに乗ることはなかったけれど
町にあるものにはまったく興味がなく
風花舞い来る峰の向こうにあるものを考えていた
両親はいつも遅くまで野良仕事
暗くなっても帰らないときは
一人半ベソで待っていた
まゆ玉を飾ったり
戸口に柊を差したり
近くには行ってはいけない森や淵があり
お墓参りで転ぶと「カマイタチが来る」と
固く戒められた
奥の座敷は一人で行く勇気がなく
母がいるときそっと覗くだけだった
冬枯れた山間の懐かしい我が家
何もなかったけれど
全てが満ち足りていて
ここを去ることなど思いもしなかった
その家も共に暮らした家族も今はなく
その上に高速道路の橋脚がそびえ
落ち葉を蹴散らし車を走らせる
そのようにして
風花舞い来る高い峰の向こうに去ることなど
思いもしなかった