雪の朝のコンポジション
salco

新雪の上にあし痕をつける代り鮮血を垂らす
雪の原(畑で可)に裸の女3人をしゃがませる
1の女は経血を垂らす
2の女は死産児を産み落とす
3の女は陰部にナイフが刺さっている

3人の女の流血の合流点では高校3年生の井関慎一郎くんが
黒い詰襟姿で両肘をついて屈み込み
血溜りの上に数学のテスト用紙を置き微分積分を解いている
第1志望は早稲田であるが風邪の発熱39度で臨んで不合格
第2志望の明大と都立大に受かる予定で、滑り止めの青学に
入学するつもりは元々ない 学部は商学部か経済学部である

1の女は彼の妻となり
2の女は彼の母であり
3の女は彼だけのブラック・ダリアである
女達の呻吟はソプラノ、アルト、メゾソプラノの和声で彼の受験勉強を励まし
抜けなくなった交尾の犬が半音階の悲鳴を曳きながら外周を6本足で走り回る

清々しい冬の朝である
赤城山麓の廃校では村人達が日の丸旗を振り万歳三唱で門出を祝っている
時の通産相 田中角栄が列島改造論をぶち上げた昭和47年、
犬は御飯に味噌汁のぶっかけ、猫はかつお節のねこまんまを食っていた
祖母 井関スエが餅を喉に詰まらせて死亡するのは翌年の正月、
享年72。


自由詩 雪の朝のコンポジション Copyright salco 2010-03-27 04:41:05
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