ピエロに扮するポール
メチターチェリ



赤色のじゅうたんのうえを靴音をしのばせながら歩く。

五歳のポールは早くも昨日の夜からカルナヴァルの予感を感じていて、鏡の前で衣装あわせ。
おしゃまな彼は、オペラ座の舞台で道化を演じる花形ダンサーよろしく、
自分をより良く魅力的にみせる訓練に余念がない。
ほんとはこの服、よごしちゃいけないからってママはお祭の日まで着させてくれないんだ。
ママに見つかったらおおめだま。
だからこっそり気づかれないように、
クロゼットの部屋までじゅうたんをゆっくり踏みしめてゆく。

とんがり帽子は去年ノエルの学芸会で東の賢者をやったときのもの。
マスクは自分で作ったんだ。
この前パパとママに連れていってもらって観たバレエの主役みたいに、
腰に手をあてふんぞりかえって、すこし小首をかしげてみる。
そしたらなんだかおかしくって、くすぐったくって、
僕が僕じゃないみたいだから、大きな声で笑いそうになっちゃった。

口をおさえて笑うのをがまんしようとするんだけど、
でもおもしろいのがとまらなくて、
明日はもうお祭だし、外は雪までふってるから、
僕は跳びはねたくなっちゃって、
でもママに見つかるのは恐いから、
窓まで走っていくとカーテンにつかまってかくれちゃったんだ。
それから口の中だけでいっぱい笑っちゃった。
でもパパが部屋に入ったから見つかっちゃった。

「パパ!」

パパと呼ばれた黒髪の男は、
目尻にしわを寄せる独特の微笑みかたで最愛の息子に最上級の愛情を示した。
父は息子に何かポーズをとってごらんと促した。
(さっきは笑い出してしまったけれど)彼はいっぱしの俳優になりきって父の前に立っている。

ポールはとても得意げだ。


*写真出典
ピカソ作「ピエロに扮するポール」(原題“Paul en pierrot”)1925
パリ国立ピカソ美術館所蔵


携帯写真+詩 ピエロに扮するポール Copyright メチターチェリ 2010-03-27 03:36:01
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