蛇たちの調べ
吉岡ペペロ

そのメーカーはあった
コガネイ係長の言うとおりだった
最初にかけてみたメーカーがそうだった

そこのなら、移設でもシステムやりかえでも、何でも出来ますよ、元そこの社員の設計がうちにはいますから、

翌朝いちばんユキオはコガネイ係長のいる現場事務所へ向かった
事務所のまえで十人くらいが輪をつくっていた
輪のまんなかにはコガネイ係長がいた
まわりが係長の話を後ろ手を組んで聞いていた
それがぞろぞろと解散したところでコガネイ係長をつかまえた

ほら、出来るだろ、はやいとこメーカー呼んで見積出してくれよ、あそこからも一応見積とるからな、速い対応と価格で勝負してくれよ、

メーカーと同行して下見をしてから一週間で見積を出した
見積価格の相談をするとイケダがえらく感心してくれた
片山先生のお陰です、ユキオが言うとイケダはそれを無視した
カタヤマが置かれている立場はそうとう良くないようだった
この一月半で所長も含めて3人のベテラン社員が会社をやめていた

ユキオの担いだメーカーは大阪から高松まで毎週のように打ち合わせに来てくれた
メーカーとコガネイ係長の商談にユキオはついてゆけなかった
いつの間にか移設の話はシステム変更の話にかわっていた
最新のシステムを導入してパソコンからの入出庫、遠隔コントロールを行う方が移設をするよりもコストに見合うということだった
もともとのメーカーは選択肢から外されていた

最終の見積はイケダと持ってゆくことになった
係長には金額をすでにお知らせしていたが最終の見積は調達に出さなければならなかった
設備担当の調達はユキオくらいの若い男だった
イケダはユキオが少し心配するくらい居丈高に、設備を得意とする会社であることをアピールした

工水のろ過装置なんかもやってるんですか、

工場のおトイレのお水やお風呂のお湯は、私どもにお任せください、そう言ってイケダがカカカカっと笑った
パーテーションのむこうにいるであろうシバタさんにまた一段と嫌われてゆくような気がした

お昼にうどんを食べながら、本社がえらいことになっている、とイケダが嘆いた

わたしも経験があるんだけどね、ベテランが何人か一度にやめてしまうと、会社っていうのは三年はガタガタするもんなんだよ、えらいことになったよ、

ユキオはイケダのうどんを見つめていた
うどんが蛇に見えたことがあったよなあ、そんなことを思い出していた
ユキオはじぶんのうどんを口に入れた
生きている蛇を食べているような気がして意地になって噛んで喉にながし込んだ

おまえらうどんだよ、蛇にもなれないうどんだよ、
そして誰かに食われてしまえよ、

じぶんの空洞のなかを蛇たちの声が滑っていった
ゆっくりとしたのどかなメロディが沈澱するように広がった







自由詩 蛇たちの調べ Copyright 吉岡ペペロ 2010-03-26 18:35:10
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