夜の涯て / ****'02
小野 一縷
濡れた鋏の翼で ブリキの鳥が
夜を 透明に 幾重にも 裂いてゆく
路上の暗がりの奥と 知覚の裏側に
魂が 横たわって 繋がる
そこに
黒い向日葵が咲き
黒い獅子が眠る
白鳥が首を垂れ 暗い泥に沈みこむ
夜に伸びる白い蔓
夜に溢れる白い樹液
捻り 絞られる 眉間
鉄塔は燃える 高く 煤で 黒ずむ
路面は 軽金属の馬と
摩擦熱を 競って 高め合う
瞬きは 繰り返し 氷着する 雷光の軌跡で
鋭く 意識の加速は 蒼く 冷たく 硬い
微細な 黒の間隙に 振り絞る
一筋の 気化する 紅は
微かな光を 引いてゆく音
銀色に 震える 触角は 描く
脳内に眠る 胎児を 幾重にも
酸性の 青暗い煙で 燻らして
立ち昇る 産声を 絡める
夜の 深さに 深く
沸騰した焦点に 生まれる
全ては もう
記号化された 音と色
刻まれた 静寂が 青く 靡く
砕かれた 沈黙が 黒く 舞う
十字 神聖に 直立した神経に
張り付いて 蒼く乾いた蛹から
時間上の距離数が 柔らかに 夥しく 流出する
長く鋭い影が 背景を 綴じてゆく
暗く冷え切った 大気を 縫いながら
浮き沈む 視点は 水銀のように
転がってゆく 電気的な流速で
甲高い 足音に高熱で 付き従い
風景の燃焼の 残像の輪郭が 反響する
意識の底に 朧に 衰弱してゆく 飛翔は
可燃性の体液に しっとりと 濡れたまま
擦り切れた 風の骸を 狂おしく 抱いたまま
魂の重心に 溶け落ちる その宿命は
血の中の 一滴の 銀の棘