大鉄道旅行時代
片野晃司

そうして
列車は燃え上がる火山の山腹を廻り
向かい合って座っていた僕たちの
車窓から美しく災害が眺められた
列車のドアから乗客たちが飛び降りていった
飛び降りては降りそそぐ炎のように水鳥を抱えて舞い戻ってきた
噴石に打たれてばらばらになった男が
びっくりしたような目をして飛び乗ってきた
僕たちは手をつないだままで窓から飛び降りては
丘の上から列車を眺め何度でも飛び乗った
客車はどこまでも連結してどこまでも果てがないから
どこで乗ってもよかった
手をつないだままで
生木のようにふたりで山腹で燃えてもよかった
死んでいくきみを車窓から眺めながら
昼食のパンを食べるのもよかった
死んでいく僕を車窓から眺めながら
きみが昼食のパンを食べているのを
僕は生木のように燃えながら眺めるのもよかった
断層を引き千切り褶曲の丘を切り通し
荒れ狂う川に沿ってカーブを描いた
川面は膨れ上がって幾度も列車を飲み込んでは
枯れて乾いていった
乾いた頃にまた泥水が押し寄せてきた
家がいくつも流れていった
車窓からそれが美しく眺められた
流れていく家の窓から
走っていく列車を眺めるのもよかった
乗客たちが川へ飛び込んでいった
飛び込んだ端から川は乾いていった
それから濁流が押し寄せた
干上がっていく川底の魚たちのように
泥の中に身を横たえて列車を眺めるのもよかった
列車は風に靡く草原の暗闇へ飲み込まれていった
ひとは宇宙空間でさえ何分も死ぬことができない
そう教えてくれたのはきみだったか
線路の敷石の下で幾層もの堆積が歪み
深みへ落ち込んでいく
それが線路の立てる音でわかる
枕木の下で幾層にも死んでいった僕たちが
その重みで深みへ落ちながら溶けて
地平の先からまた昇ってくる
それが暗闇を走る列車の軋みからわかる
僕たちは手をつないだまま
暗闇を走る列車のあかりを見た
それから風に乗って
眼下を走る列車を見た
それから
大地の下に仰向けに沈んで
夜空を走る列車を見上げた
客車はどこまでも連結してどこまでも果てがないから
どこで乗ってもよかった
夜はもたれあって手をつないだまま眠り
昼は向かい合って外を眺めた



(詩誌「ガニメデ」vol.45 2009年4月)


自由詩 大鉄道旅行時代 Copyright 片野晃司 2010-03-24 19:40:20縦
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