ワルツ
次郎
全てが過去へと帰してしまって、何もかも思い出になってしまう日がいつかはくるのだろうか
煌めいた日々も、手のひらからすりぬけてゆく砂のように流れきって
さびれた海で笑い合ってる写真をアルバムから取り出し「あの時は良かったね」なんて嘯く日が・・・
認めたくない事実だけどあるんだよ、それはやっぱり
今日午後11時34分。薄暗く、長い廊下は黄緑色に染まっている駅のホームに立って、
君は色鮮やかな円と三角形の絵柄が描かれたスカートをぎゅっと握りしめて、
肩を震わせて泣いていた
それを見て胸は痛んだ。奥のほうで、魚の骨が刺さったみたいに・・・
泣き上戸な彼女だったけど、ここまで胸に迫る泣き方は無かった。
犬の死んだ映画を見て泣いたことはあるけどこんな泣き方じゃなかった筈だ。
その顔に心揺り動かされ、言おうと思ってた言葉も引っ込んで呑み込んだ
明るい顔でさよならのさの字も言えなかったんだ
別れって辛いものだ。
ネットワークが発達した現代でも、もう逢わないって決めてる二人には無意味なものなんだよ
愛の力は偉大だって言うけど、それだけじゃどうにもならない、どうにもならない事実ってあるんだよ
世界が終わって僕らだけがとり残されたみたいだ
駅前のデパートもパチンコ屋も今は息を止めている
今も思い出せるかな?重力に反して出逢った僕たちの出会った時を
君の手はふっくらしててマシュマロみたいだと言った
文学的だねと君は言った だけど実はそんなのちっとも文学的じゃない
ただの思いつきで言ったことをわざわざ拾い上げたんだ
観覧車の先で「好きだ」って言ったの、あの台詞、噛んじゃったんだ
とびきりロマンチックなシチュエーションだと思ってやってみたんだけどさ
笑って君は「はい」と答えたんだ
もうそれだけで世界全部が救われるような気がした。何もかも、その時に地面の色さえ変わったんだ
あの時を今、再現してるんだよ 僕はたしかに君を「好きだ」と言った。
戻ることはできないけれど「好きだ」と言ったんだ
何度もは言えない 息が詰まって涙がぼろぼろ出てきそうだから
全てが過去になって、何もかもが過去になってしまう日はくるのだろうか
くるんだろう、自分に問いかけるまでもなくわかってる
そして終わりじゃないんだ、過去になったからと言って全部消えてしまうわけじゃない
どれくらいの年月かはわからないけど残り続けるのだ
終わらない物語が、君と僕の人生が
いつまでも