ある水辺に
石黒あきこ

境界。光がゆるやかに拡散し、とびはねて。
舞い散る分離した色、いろ。

/夏の砂だの、猫の毛だの、ゆくえのないか
んじょうだの、とかげの過剰なしっぽだの。
大気はそんなものをすべて包容するのに。水
は。水は。けっして大気を受け入れない。た
いきはみずとまじりあえない。だから大気は
泣いたふりをする。なみだした、ふり、を、
する。求めているのに。恋焦がれているのに。
じりじりじり。焦げついたものは、食べかけ
た白いりんご。/

境界。相容れない存在たちの、そのはざま、
その境の、その世界。涙はチョコレートに変
わっていく。

(ときおりね、あらゆる世界がつくりも
 のだったと思うんだよ。海がすべて干
 上がったとしても、所詮はプラスチッ
 クだからなにひとつ変わりはしない。
 この腕をいくら切ったって、盛り上が
 る血液に痛みなどなくて。)

/君は、コットンレースのワンピースを着る。
裾をつまんで小首をかしげ、きれい?と笑っ
てから、僕のこたえを待たずに駆けだす。は
だしのままで。アン・ドゥ・トロワを気まま
にくずしたステップ。てのひらをそらへ伸ば
し、光を絡めとる。たいようの光。みなもに
反射する光。内包する光。融けていくひかり。
光のすべてが君を歓迎する。しゃらしゃら、
しゃらら。チョコレートをひとかけ、くちに
ほうり込み。ひかりをブレスレットにして。
大気と水の境界で。踊る、踊る、きみ。/

(            けっきょく
 ぼくらは何に固執しているというんだ)

境界。染まったりんごの芯をはじいて。



       詩と思想2009年9月号読者投稿欄掲載


自由詩 ある水辺に Copyright 石黒あきこ 2010-03-23 23:53:03
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