君がここにいてほしい
薬指
野良猫がなにかを待っている駐車場
壊れた街灯がまばたきしている路地
さびしげな風が吹いて扉が閉まる
いつもこんなふうに僕は
君の影を追ってばかりいるわけじゃない
冷たい窓ガラスに当てた指先
眠れない午前二時
いま会いたい
君がここにいてほしい
昔なじみの友達と
お互いの暮らしを話し合ったんだ
いろんなものを取り上げられて
吸い込む空気が薄くなった気がする
いくら商売熱心になっても手に入るのは
ほんのちっぽけなものばかり
でもそんなことは気にしていない
問題は君がいまどこで
なにを待っているか
僕にはわからないってことだから
いま会いたい
君がここにいてほしい
長い眠りから覚めたとき
いつも頭の中に浮かび上がるのは
いつか見た透き通るような青空を
通り過ぎていく飛行機が引いた一筋の雲
海の底をゆっくりと泳ぐ大きな魚
そういう重苦しいシンボルを
簡単に引きはがしてくれた君の白い手
わざと遠回りして君を手に入れようなんて
やめたほうがいいって
誰かが忠告してくれるのを待っていた
いま会いたい
君がここにいてほしい
子供のころ大人たちから取り上げられたものを
一つ一つ取り返したとしても
胸にあいた穴を塞ぐには
なんの役にもたたないってことを
まるっきりわかっていなかった
僕は深く考えもしないまま
ごく自然に君を失っていた
なにかが間違ってると僕は思った
まったく別の生き方をしてみてもよかった
君と出会って握手だけを交わして
それっきりの人間に生まれたってよかった
電線の上で鳴く烏が
吹きつける横殴りの風が僕を
まるっきり出来損ないだってあざける
いま会いたい
君がここにいてほしい