夥しい静寂の / ****'02
小野 一縷
弱々しい光が まどろみに咲く
鈍く 浅い眠り
左右に滲む 時計の針音
指輪の中に 溶ける指
白い時間に
記憶が 目覚めの中に ほどける時
物憂い 発光は ぬるい痛みを帯びて
射す
かつて目にした 全てが
編み上げた この思い出の 切れ端に
苦味のある 免罪の 長い影が 暗く 染み込んで
吐き気だ
なぜ?
壁 白い 壁
白い 壁の中の 蜘蛛が 不安に ざわめく
壁の中に 回れ 光
壁面を帆走する 風を受けて
黒い 黒い 染みを 駆逐しろ
そして 今 さあ
床に 張り付いた 十字架の 脊髄を剥がして
その瑞々しく 濡れた骨を 繋ぎ止める
神経の繊毛の 眩い 輝きに
震える脅えが 具象化される
知覚と衝動 その 受胎が
濡らしてしまった 床に
欲望を搾る 生々しい執着は
純潔な 混迷の中から 掬い上げた 紛れもない
無垢だ
周回している
何が?
甲高い 汽笛が 鋭利に 周回している
染みてくる 耳から 口に 舌に 顎に 血の温度
温かい 痛みの無い 苦しみを過ぎて
何かが 遠くに 粉々に 砕けて 散った
こころを 掻き分けて
それを 探しに行った
方向の無い 空白の中に
過ぎゆく足音の 置いていかれた 最後の その一つを 聞いたなら
手を叩いて
合図しろ
手を叩け
手を叩け
手を叩いて 生むんだ
手を叩いて 行くんだ
音を
その圧力を 追い駆けて
もっと
叫べ
声を 言葉よりも ありのままの 響きを
ああ なのに また
狭く締め付ける 溢れかえる 余分な共鳴が
そう 円を舞いながら
それも ほら
その中真 濡れた 神経繊維を手繰る
両目と両耳を覆い 口を塞ぐ
おさまらない 吐き気のような
この 祈り
粉々に 散った時間が
収束するまで 口から 零れ続ける
忌々しい 戯言だ これは
沈黙に 等しい温度で
止まない 眩みに 紛れ込み
錯乱する静寂よ 灼熱の静穏よ
我が徒刑の果てに 刻まれた おまえ達 冷酷な秒数で
今 再び 時間を紡げ