Goodbyebirdと名付ける
たちばなまこと

左折レーンにいた
交差点にしゃがみ込む人たちを見た
赤い小さな水たまりを見た
音声を風が運んだ
がんばって…
がんばって…
助手席の彼女が見たもの
人の言葉を持たない小さな生命が
消えゆきそうになっている
今朝もあらゆる光に
黒目を艶めかせ
無垢に吠え
しっぽを振っていたであろう
きみが


枯れ葉が蝶に
つむじ風が螺旋に
不意に視野を入れ替える
私は土の上に裸足で
生成りの服で
しゃがみ込んでいた人たちも立ち上がり
見送り人(びと)になる
きみの栗毛の背中から
羽が生え
ふたたび瞳は黒く開かれ
今朝も見たであろう光を見上げる
きみをGoodbyebirdと名付ける
帰り方は 生まれたときから知っている


私は私の生き方と向き合う
私は私の今の胸の内をふるい立たせる
好きよ
どこまでもゆきたいよ
さむいよ
抱きしめてよ
激しく光る
取り巻く世界の外側から囲い込むように
居ないよ
どこへもゆけないよ
あついよ
風を送ってよ
裸になる覚悟はいつだって出来ている
帰り方も 生まれたときから知っている


夕暮れがやってくる
予兆の
桃色がかった空が好きだ
助手席の彼女が言う
せめて…
苦しみが少なく…
旅立てるといいね…
空を埋めるように白い羽を広げ
航路をきみは
黒い瞳で 光をとらえている
きみがこぼした生命のかけらは
小さなダイヤモンド
きらきらと輻射して
残された私たちに降りかかる
きみの旅立ちに出会った
きみをGoodbyebirdと名付ける


自由詩 Goodbyebirdと名付ける Copyright たちばなまこと 2010-03-22 08:55:29
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