羊雲
蒲生万寿
あれは昨夜
金色(こんじき)の鷹が
喰い散らした羊の群れだ
俺は見ていた
奴がゆっくりと西へ渡ってゆくのを
樹頂でトラフズクが野ネズミをほふりつ、はやし立てる
金色の鷹は
羊を爪で裂きくちばしで散切り
「今夜はこれだけしかいないのか」
闇に轟く一声発し
地上に居た俺の目と奴の目が合った
ヒスイの目に射すくめられて動けずにいると
「お前では喰いたりぬ」
そう言い捨て次の羊に襲いかかる
奴の目線から外れた俺の中で
太古からの血が蛇となって這いずり周り
舌先を震わせ促した
「踊れ」
不格好にも手と足を振り回す
「物足りぬ 踊り狂え」
頭を振りかざしさらに激しく身を捩る
「炎にならなければ、お前には嘘がある」
全身から脂が零れ落ち
その一粒が真珠の子を孕む
俺は炎となり自らを焼き尽くす
星の一つ一つを指さし
「いつかお前らを喰う時が来る」
火の粉と共に言い放ち俺は踊る
東に日を呼び戻すまで踊り続ける
暁が炎を奪って大地へと捨て去り
そうして地上の生命にむさぼられ
緑と水が作られる
金色の鷹が夜を引き連れ西へと去りゆく
俺は見ていた
朝日に照らされた羊の群れが
雲となって流れてゆくのを