酒場での一幕(愚痴)
pur/cran
わたしたちは曼荼羅を描こうとしておりましたな。たしか。
「いいえ、そんなことはありません。」
又始まった。無意味な反駁ばかり繰り返す下衆の世迷いゴト。
「曼陀羅など、ハッ、そこらの坊主が精魂尽くして描けばいいのですよ。
わたしたちはただそれを遠目に観察してればよいのです。」
もう、うんざりだ。こういう輩が、物事の苦しみを倍化し、
わたしが問題の解決に腐心することを許さないのだ。
なぜ、この罪もなければ害もないはずの男が、こうも意味のない話をするのか。だいたいにおいて、彼は邪魔をするというのが好きなのだ。いや、好きどころの話ではない。それを天命だと、まじめな顔をして話しているのだ。彼の目下の敵は止め処なく進行する時間であるのに、彼はその時間に傅いては、ちらちら様子を横目でうかがってばかりなのである。その幅寄せが、くだらないその結果と云うものが、わたしの生活の上に及ぶのだ。もう堪えきれん!と私は仲間に幾度漏らしたことか! それでも決定権は彼にある。気まぐれな彼にあるのだ。
曼荼羅を描かねばならないなどと云う突拍子もないことを言い出したのも彼ならば、先ほど否定したのもまた彼なのだ。曼荼羅を描くための塗料も場所も用意したというのに、すぐさま徒労に終わる。毎日がほぼこれの繰り返しである。時には、万事がうまく言ったといえるときもある。彼が思いつき、すぐさま物事に取り掛かれたときなどが、これにあたる。だがそのあと、その仕事を見て彼は何というか。壊せ、と、こういうのだ。造り上げたものを壊せ、と。そしてすぐ、また気まぐれに他のものを造れと命じる。すると、それはとても時間がかかったとしても、いずれはなしにされるのだ。
どうしてかということを、わたしたちはもう既に知っている。完成することを恐れているのだ。形になることを恐れている。つまり、時の支配下に置かれ、時間が流れるにつれてぼろぼろになっていくこれらを、彼は憎みながら恐れているのだ。彼の主人である時の跡を、完成する前に見てしまうからである。われわれは辟易して今では言葉もないが、これが今の上司なのである。わたしたちが覆し得ない上司は、この狂った思考に憑かれたまま、今でも時間への報復を狙っているのである。無力な、しかし彼についていくしかないわたしたちを部下に従えながら。