たもつ

 
夕方の公園で男が一人
ブランコをこいでいる
くたびれた感じのスーツを着て
サラリーマンのようにも見えるけれど
首から上に頭は無い
代わりに
水の入った水槽が乗っかっている

水槽の中には小さな魚が一匹いて
銀色の横腹を見せながら泳いでいる
溢れそうになりながらも
水槽から水をこぼすことなく
男はブランコをこぐ
こんな時間にスーツ姿の男が、とは
おそらく何か訳有りなのだろう

やがて男はブランコを止めて
公園を立ち去る
降りる時にこぼれた一滴の雫が涙に見えたのは
僕のつまらない感傷かもしれない

男の後を着いて行くと
魚が一匹では淋しい、とか
そろそろ餌の時間だ、とか思い始め
落ち着かない気持ちになる
アスファルトに伸びる男の影を見て
それが僕自身の姿だと気づくのに
さして時間もかからなかった
 
 


自由詩Copyright たもつ 2010-03-17 22:36:07
notebook Home