聖橋のひと
恋月 ぴの
私って口下手過ぎるよね
神田東松下町にある小さな問屋さんで面接受けたあと
どこをどう歩いてきたのか
気がつけば聖橋の上から鈍く光る中央線の鉄路を眺めていた
ここから飛び降りたとしてもねえ
ゆったりとした神田川の流れは宴の気配に満ちて
清清しくも春の風は岸辺にそよぐ
面接官のおじさんは優しくて
いろいろ気遣ってくれたのだけど
それだけに自身の至らなさがあまりにも情けなかった
「こんなに応募あるとは思わなかったので
申し訳ないけど二次面接行わせてもらうから」
おじさんは机上の書類片付けながら
体のよい断り口上なのかそんな言葉をかけてくれた
諦めずに次を探さないと
聖橋を渡ればあのひとの通った学校がある
ふたりで構内の本屋さんとか学食利用してたけど
校舎建て直されてからはすっかり足が遠のいてしまった
久しぶりに古書街にでも寄ってみようかな
湯島聖堂の桜は二分咲程度には綻びはじめていて
私の桜も見事に咲いてくれると良いのだけど
聖橋の袂には真新しいスーツに身を包んだ学生さん達が集っていた
やっぱ春っていい季節だな
暖かな日差しに面接の失敗癒されたような気がしてきて
へたりはじめたスーツに引け目覚えながらも
貧乳自慢の胸を張り大また歩きで交差点を渡る