聖橋のひと
恋月 ぴの

私って口下手過ぎるよね

神田東松下町にある小さな問屋さんで面接受けたあと
どこをどう歩いてきたのか
気がつけば聖橋の上から鈍く光る中央線の鉄路を眺めていた

ここから飛び降りたとしてもねえ

ゆったりとした神田川の流れは宴の気配に満ちて
清清しくも春の風は岸辺にそよぐ

面接官のおじさんは優しくて
いろいろ気遣ってくれたのだけど
それだけに自身の至らなさがあまりにも情けなかった

「こんなに応募あるとは思わなかったので
申し訳ないけど二次面接行わせてもらうから」

おじさんは机上の書類片付けながら
体のよい断り口上なのかそんな言葉をかけてくれた

諦めずに次を探さないと

聖橋を渡ればあのひとの通った学校がある
ふたりで構内の本屋さんとか学食利用してたけど
校舎建て直されてからはすっかり足が遠のいてしまった

久しぶりに古書街にでも寄ってみようかな

湯島聖堂の桜は二分咲程度には綻びはじめていて
私の桜も見事に咲いてくれると良いのだけど

聖橋の袂には真新しいスーツに身を包んだ学生さん達が集っていた

やっぱ春っていい季節だな

暖かな日差しに面接の失敗癒されたような気がしてきて
へたりはじめたスーツに引け目覚えながらも
貧乳自慢の胸を張り大また歩きで交差点を渡る





自由詩 聖橋のひと Copyright 恋月 ぴの 2010-03-15 19:05:10縦
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