蛇の誓い
吉岡ペペロ
黄砂か花粉かフィルター越しに太陽が鏡のように光っていた
高速を飛ばしているとなんとなく蛇のお腹のなかをゆくような感じがした
それがシバタさんと今のじぶんの関係を思いおこさせるのだった
引き継ぎのとき所長が最後に紹介してくれたのがシバタさんだった
それからも何度となくシバタさんとお会いしていたが蛇と蛇とが睨みあい威嚇しあうような不穏な緊張を感じていた
シバタさんはいつもユキオの会社の足りないところを指摘した
所長がかわいそうだよ、ひどい会社だよ、きみもそう思うだろ、ユキオは黙って聞いているしかなかった
オレも会社も、嫌われてるんだろうな、
シバタさんに初めてご挨拶したときの妙な沈黙と視線を思い出した
第一印象が悪かったのかも知れない、いまから行くメーカーさんにもそう思われたら終わりだ、そう思われないようにする、するぞ、
そう思うとユキオは不安や不快感が少し晴れたような気がした
高速を出てからコンビニで地図を買った
地図を確認していたら4時をまわっていた
この不況でたいがいのメーカーが残業を禁止していた
早く行かなきゃ、
アポイントは取っていなかった
来ても無駄ですよと言われてしまったら、それをおしてまで行くのは逆効果になると思った
事務棟の2階にメーカーの営業を訪ねた
担当は不在だったが営業部長が応対してくれた
担当にも確認するけれど、あいにく工場長がきょうは休みなんだ、それにしてもそんな納期まず無理だよ、ちょっと非常識じゃないか、
ユキオはじぶんの非常識を謝りながら明日工場長が出社するのかを部長に確かめた
明日また来させていただきます、と言ってユキオはとりあえずその場を辞すことにした
今粘ってみたところで部長が営業部長の立場でこの件を跳ねてしまったら、これ以上のお願いが出来なくなってしまう、そう思った
カプセルホテルに泊まることにした
外で食事をすませ浴場で湯につかった
朝起きたとき今夜こうして湯につかっているとは思いもしなかった
どうなるか分からないことに意味がないかも知れないことに自分を嵌め込んでゆくことがとつぜん寒々しくも感じられた
ユキオは顔を湯につけた
そのままカタヤマが言っていた言葉を呪文のように繰り返した
あとは登るだけだ、山頂はあるんだ、あとは登るだけだ、