蛇がゆく
吉岡ペペロ

頼りにならないなあ、うちは所長さんだったから任せてた部分もあるんだよ、もうこの製品の購入はきみのところではなくてほかのルートに替える、
調達のシバタさんが再度ユキオにそう告げた

メーカーからの納期回答は五月の末、シバタさんの希望納期は連休前だった
常務のイケダにもメーカー交渉をしてもらったがダメだった
もう一度交渉します、やらせてください、ユキオがなんど頭を下げてもシバタさんはまったく取り合ってくれなかった
うちは所長さんだったから任せてた部分もあるんだよ、もうこの製品の購入はきみのところではなくてほかのルートに替える、メーカーに裏工作なんかするなよ、そんなことしたらほかの注文もなくなると思えよ、

納期トラブルを起こしているのは製品に組み付けるパーツとして一年に一、二度発注のあるポンプだった
今回の発注台数は7台だった
五十万ぐらいのものではあったが売上半年で倍を掲げている以上失っていい商権などあるはずがなかった
ユキオは虚ろに席を立ちシバタさんに、ありがとうございました、と一礼して調達室を後にした

えらいことになってしまった、

社長の顔が浮かんだ
カタヤマやイケダにも申し訳なかった
ツジさんがなんだかかわいそうに思えた
それよりも悔しさや不快感で胸が息がこわばった

ありがとうございましたってなんだ、オレは何をやってるんだ、いまからシバタさんに土下座しよう、土下座ぐらいなんだ、してやる、土下座してやる、メーカーに行ってしまおう、いまからメーカーまで走ってやる、絶対に間に合わせてやる、

ユキオは調達室に戻りシバタさんの内線番号を押した
こんなにふつふつとした興奮は仕事をしていて初めてかも知れなかった

ユキオはツジさんに、きょうは遅くなるかも、だからシャッターを閉めて帰って、と伝えた
それからイケダにメーカーに直接交渉しにゆく旨を伝えた

車を走らせながらユキオはやはり不安でたまらなかった
カタヤマに電話で助けを求めたかった
でもこれはカタヤマに聞くような問題ではないと思った
シバタさんは不思議なことを言ってたな、ユキオはそのことを考えていた

納期は間に合わないんだろ、そんな意味のないことはやめろよ、メーカーにルートを替えないように裏工作なんかしに行ったら承知しないぞ、

ユキオに裏工作するつもりなどなかった
納期を間に合わせたいだけだ
納期が間に合えばそれでいいではないか、意味のないことはやめろってなんだ、ただ購入ルートを替えたいだけなのか、
シバタさんの顔が蛇になっていた

なんで蛇だ、蛇というより蛇つかいだろ、オレをこんだけやる気にさせてくれるんだから、













自由詩 蛇がゆく Copyright 吉岡ペペロ 2010-03-14 00:12:44
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