ペンギンの光
楽恵

鉄道都市にある高層ビルディングのてっぺんにて
皇帝ペンギンが一羽
光ったり消えたりしている。
(蛍みたいだ)
西方から見るといくぶん寂しげな東の巨人のなかで
光る皇帝ペンギンは真夜中の迷える船にとっての灯台のような存在だと私は思う。
南極に生息するはずの皇帝ペンギンが
どのような環境変化が原因でこの都会に移動してきたのか
そしてなぜ発光体となったのか
詳しい事は知らない。
(失恋かな)
(・・・ペンギンも恋するの?)
雨の日になると、皇帝ペンギンの青白い発光は少し弱まる。
満員電車に揺られながら
私は光る皇帝ペンギンが雨に濡れてないかどうか気にしている。
自分の傘から滴る水が、他人の靴を水浸しにすることさえ忘れるくらい、
遠い国の災害や戦争よりも、光る皇帝ペンギンのことが心配だ。

そのビルの近くに寄って見上げると、光る皇帝ペンギンは意外と見えにくい。
電車に乗って遠くから眺める方が、ペンギンの光る様子はよくわかる。

朝、家から会社に出勤するときは
光る皇帝ペンギンのことなんてほとんど忘れているのに、
昼休みにお弁当を買いに行くときはまったく忘れているのに、
日が暮れて帰宅時間になると
私はいつも電車の窓越しやプラットホームから、
光る皇帝ペンギンを高層ビルの屋上に発見する。
そしてあの光る皇帝ペンギンを見つけたとき、
私の胸の心臓も、同じように少しだけ光るのだ。


自由詩 ペンギンの光 Copyright 楽恵 2010-03-13 20:26:13
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