バードストライクの空
楽恵
一度乗ってしまえば、後はひたすら上昇し続けるしかない鉛色の集団エレベーター、
もし君が雨に濡れたアスファルト芳しい地上に再び戻りたいと思ったのなら、
神と同胞と家族を裏切り、心変わりしてしまったというのなら、
これからシナイ半島に渡る予定の頸の長い鳥が飛んでくるのを待つしかない。
光る入道雲のなかをきれいな真四角に切り取った真空の窓から眺めて、
ホライズン、
子どもの頃まっすぐに伸びていた滑走路が懐かしい、と君は思うだろう。
あの頃僕らは誰も疑わず成長することができた。
確か町には壁すらなかった。階級も。尖がった煉瓦の時計塔が建っていた。
運がよければ、これからその様子を垣間見れるかもしれない。
その時(UTC、協定世界時の朝8時)、両者の飛行ルートを追いかけるように、
神秘論者がテロルを一掃し駆逐する時代が到来する。
ターボジェットエンジンが、我侭な気流にせつなく揺れている。
遺書をメモする余裕すらない。
自然の法則に罪はない。
未来の人造人間によって計画された精神主義のヒコーキが
旧型の原子爆弾を抱えて飛んでいる、
野生の鴨の群れがそこに近づいている。