蛇の夢
吉岡ペペロ

冷遇されてたんだろ、つめたい会社だな、かわいそうに、
そんな注文いらんわ、って怒鳴られたことがあるよ、いまさら遅いよ、

所長のあとがまとしてお客様を回るのは気が滅入ることも多かった
手応えもあったが工事物件の引き合いはまだひとつも貰えていなかった
それでもユキオが頑張れていたのはふたりの存在があったからだ

カタヤマは来所のたびに何点かのキリコミ商品をユキオに紹介した
そのセールストークを何度もロープレしてくれた
それを持っていくことで見積依頼や注文に結びつくことも増えてきた
ツジさんは曖昧に伝えたことであってもいつもきちんと処理した
ユキオがよくは分かっていないようなことも積極的に教えてくれた
カタヤマは登山をイメージしろ、と言った

山頂はもうすでに存在している、あとは我々が登ってゆくだけだ、

登山はスポーツじゃないんですか、ツジさんがおどけて聞いた


ネクタイをはずしてスラックスを脱いだ
夜風が窓から匂っていた
ユキオはそのまま横になってテレビをつけた
桜前線の入った列島地図が映っていた
前線がいく匹もの蛇のように見えた

世の中、蛇が多いいのお、

ユキオはあくびをしながらそうひとりごちてテレビを消した
そしてワイシャツとパンツと靴下のまま腕時計もはめたまま眠ってしまった

ユキオだけが場違いなかっこうをして礼拝の群衆のなかにいた
すぐ横を巨大な蛇が這っていった
ユキオの身長よりふとい蛇だった
背後から靴音が猛スピードでこちらに近づいてきた
振り返るとさっき通り過ぎたはずの巨大な蛇がユキオめがけて頭を突きだしたり引っ込めたりしていた

おまえさんかね、わたしを呼んだのは、

ほかの群衆には見えていないようだった

ぼくは蛇なんで、蛇つかいにつかわれるほうなんで、

ユキオは巨大な蛇にじぶんが呼んだのではない、と伝えた
怖くなって視線を戻すとあたり一面がちいさな蛇で洪水のようになっていた
あっというまの出来事だった
右に、左に、上に、下に、まっすぐ、斜め、こちらに向かって、遠ざかって、ちいさな蛇たちが大集団で集合離散をくり返していた
それはユキオが意識をずらすたびに沸き起こるようだった






自由詩 蛇の夢 Copyright 吉岡ペペロ 2010-03-11 23:45:31
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