さ もん
イシダユーリ

こいびとは
ずっと
眠っている
こころを
腫らしながら
そこには
あらしのような
晴れ間が
ある

そこにだれがいけるの?

ずっと ひとが いない

彼女たちが
つよく願った
からだは
かたく透明な
ガラス瓶のなかを
ごうごうと
ながれおちる
滝のような
血流

彼女たちは
つよく願った
ごうごうと
口ずさんで
決めた
かたいからだが
地面に
叩きつけられて
割れる
こと


ずっと ひとが いない

本当のことを
教えてくれない
本当のことが
わからないから
滝に
うたれているものは
ない
そこを
おちていくものも
ない
ただ
ごうごう
ごうごうと
口ずさんでいる

いまは だれを たたきわるの?

ふるわれる 暴力は いま だれのもの?

こいびとは
ずっと
眠っている
忘れるには
時間では
たりない
死んだこころが
楽器になろうと
群れるけれど
よりかかる崖を
もたない藻が
からみつく

誰の腕ならば
切り取ってもいいの

誰の眼ならば
えぐり取ってもいいの

誰の肋骨ならば
へし折ってもいいの

誰が ひとに なってくれる

ずっと ひとが いない

透明のなか
ながれている
ひっきりなしの
あらしを
見せつけているのに
触れることが
できない
叩き割られる
叩き割られる

机の端で
がたついている

こいびとに
カモメの飛び方を
教えなきゃ
あの流れに
のみこまれていけるように
そのとき
ひとがのる
船の心臓の
音が
たった
ひとつの
合図だと

この目は
きみのもの
この口は
あなたのもの
この腕は
彼女のもの
この脚は
彼のもの

こいびとが
押し流され
のみこまれる
彼女たちが
つよく願った
からだに
ただ
耳を
おしあてる

ごうごう
この骨は
きみのもの
ごうごう
ごうごう
ごう


自由詩 さ もん Copyright イシダユーリ 2010-03-11 23:11:39
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