水を渡る
石瀬琳々

手をのばせばつかめそうで
指のあいだからこぼれ落ちてゆくもの
きらきらと きらきらと
それは光っている 踊っている


   *


春の訪れ、光まぶしいこの水辺
まだ若い水草がさやさやと絡みつく
むきだしの脛まで冷たい水に浸りながら
わたしは歩いてゆく 風の方角へと


あなたはまるで切っても切れない絆のよう
水面を覗くと微笑みが見える
わたしをすべて見通すあの瞳で
そうしてあなたの中にわたしを見るだろう


わたしはわたしをそっと抱きしめる


   あなたはわたし


   *


水の上を名もない風が渡ってゆく
かすかなさざ波を立てながら彼方へ
歌をくちずさみながらまだ見ぬ彼方へ
手をのべるとあなたの呼ぶ声になる


わたしはわたしの声を知らない


   わたしはあなた


   *


耳を澄ませている
名もない心を抱いたまま
わたしもいつか風になってゆこう


透明な飛沫を上げながら
軽やかな足どりで 振り返りもせず
(きっと夢の中のように)


わたしは歩いてゆく
歩いてゆく




自由詩 水を渡る Copyright 石瀬琳々 2010-03-11 13:45:59
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