蛇の宴
吉岡ペペロ
先生と夜食事でもしなさいと今朝社長から電話があったのでユキオはカタヤマを食事に誘った
カタヤマは意外に乗り気で、ぼくもきょうそうしたいなと思っていたんです、と嬉しそうな顔をした
営業車にふたりを乗せてツジさんが予約を入れておいてくれた居酒屋に向かった
カタヤマが焼酎のソーダ割りを頼んだのでユキオもなんとなくそれにしてみた
ソーダ割りと生中で乾杯しツジさんがカタヤマに質問をし始めた
ふたりのやり取りを聴いているのが心地よかった
ぼくは人間ギライなんですよ、
見たままじゃないですか、でも、そんなので仕事出来るんですか、
ユキオはやっぱりな、と思った
カタヤマは蛇が好きなのだ
蛇あいてだから仕事には支障がないのだ
あ、上田さん、どっか行ってる、片山先生、上田さんってよくこんなふうにどっか行っちゃうんですよ、
カタヤマが爪をかみながらユキオを見つめた
先生はぼーっとしたりそんな時間を過ごされたりしないんですか、ユキオがはじめて質問をした
スポーツとかぼくは大嫌いでね、ぼーっとしてるじゃないですか、スポーツって、
キビキビ動かなきゃ負けちゃうじゃないですか、
でもスポーツって必ず誰か負けるでしょ、キビキビしてない方が負けるでしょ、
ユキオは浪人時代予備校にあったテニスコートで一日中テニスをしていたことを思い出した
永遠に終わらないかと思われるラリーも必ず終わる、こいつに勝ちたいという気持ちを圧倒的にかき集められたら、実力差がなくても連戦連勝できる、そんなことを思い出していた
カタヤマの人間ギライはユキオにも共感できるものがあった
朝マンションのエレベータを使わずに階段で降りることの方が多いですから、
エレベータで住人といっしょになるのが嫌なんですよ、
玄関を出て廊下にひとの気配がしたら玄関に入りなおします、
ツジさんもユキオも声をたてて笑った
こんなにひとの話しで笑うのはいつぶりだろう
さすが、蛇つかいだな、ユキオはなぜか何かの瞬間に立ち会っているような気がした
ひとは誰もが蛇だとしたら、ひとは誰もが、蛇だとしたら、そんな思考がぐるぐると回った
カタヤマが支払いをしようとしたのでツジさんが、きょうは社長が、と言って支払いを済ませた
そとは風が舞っていた
さっきの思考がまだ呪文のように回っていた
帰ったらネットで蛇について調べてみようと思った