蛇が泣く
吉岡ペペロ
3時に営業所に戻るとユキオの向かいの席に薄い黄土いろのスーツのカタヤマが座っていた
カタヤマがほんとうにどこかの国の蛇つかいのように見えた
ゆるいオールバックがターバンに見えないこともなかった
ツジさんがカタヤマのお土産だと言ってお菓子をユキオの机に置いた
食べながらでいいから上田さんの月曜からの動きを聞かせてくれるかな、
ユキオはこの三日間カタヤマからの指示通りに、こんな工事をうちは出来ます、という営業をお客様にしていた
そのお客様の反応をカタヤマに伝えた
カタヤマはフリスクをたまに口に入れながら、ときに頷きながら、ユキオの話を聴いていた
いったん話し終えたユキオがツジさんの出してくれたお茶をひとくち飲むともう冷たくなっていた
上田さんは全然お客様からの反応がなかった、と言ってる訳だね、
はい、期待してた反応がないです、
どんなひとにPRしたのかな、
あ、まあ、引き継ぎ受けたひとです、
そのひと設備担当なの、そうでないなら設備担当の方を紹介してもらえばいいだろ、
引き継ぎも受けてないのにですか、
引き継ぎを受けたひととだけ話していていいと思うのか、その方たちが設備担当だったら我々はとっくに工事物件をやらしてもらってるよ、
カタヤマが甲高い声を発してユキオにフリスクを投げつけた
ユキオがひとにものを投げつけられたのは大学生のとき以来だった
男声合唱部の顧問の先生だった
音楽はデジタルなんだよ、ここにいっぱい情報があるんだよ、
先生がタクトで宙を掻き回すとユキオにむかってそれがふわっと飛んで来た
ユキオはツジさんが横にいるのに泣きそうだった
最後の日に所長の車が角を曲がっていったのを思い出していた
それはまるで姿を消す蛇のようだった
上田さん、片山先生は勝ち方を教えてくれてるんだよ、
ツジさんがそう言って狭い炊事場に消えた